筋力トレーニングを苦痛に顔をゆがめながら、自分自身の限界までの負荷量で行なった経験はありませんか?
最大筋力を向上させるためには、筋力トレーニングにおいて当然ながら最大限に近い負荷量で行なうことが常識だと思います。
事実、歯を食い縛り全身が苦悶にゆがめばゆがむほど、中枢からのインパルスは増大し、神経筋単位の活動数と水準が高まった結果、大きな筋収縮を引き起こすことが可能となります。
そしてこの事実は、強大なパワーを発揮するためには苦悶に全身をゆがめる必要があることを意味しています。
つまり働かせたい筋の神経筋単位をより多く、より高い活動状態にもっていくためには、ある種の中枢の興奮が必要であり、中枢がそのような興奮をするためには、全身がある種の興奮状態を必要とすることになります。
具体例として、サッカーでボールを蹴る時に働く大腿前面の大腿四頭筋という筋群は、片足で全身の筋の僅か10%以下の量にすぎませんが、この筋群を最大筋力として働かすためには、全身の協力が必要ということになります。
では実際の競技中に筋力トレーニング時のような最大筋力を発揮できるのでしょうか?
答えは、パワーリフティングなどの最大筋力を発揮することを競い合うような競技を除き、「NO」となります。
筋力トレーニング時に発揮される身体各部のパワーは、同じ個人が競技中に発揮する身体部分のパワーよりも大きくなります。
その理由として、筋力トレーニング時には、
・ 特定の筋力発揮に意識を集中できる
・ より大きい筋力を発揮するための負荷をかけることができる
・ 中枢の興奮を支える心身の状態を作り出すことができる
などが挙げられます。
このように、特定の筋力発揮という目的のために心身をなり振り構わず動員した際のパワーを、「粗制的パワー:Rough Power」、略して「ラフパワー」と呼びます。
よくある事例として、肉体改造などでラフパワーばかりを強化してしまった結果、かえってスキルが低下してケガが多くなった選手を皆さんもご存知かと思います。
その一方で、特定の筋力発揮を他の何らかの認識(思考、表情、視認、動作など)と統合した状態に発揮されるパワーを「精制的パワー:Refined Power」、略して「レフパワー」と呼びます。
競技中には常に最大筋力を発揮し続けるような局面は存在せず、自分自身の重心位置や最適な筋出力の調整など、いわゆる内的認識力を働かせることが必要となります。
そのためパフォーマンスとの関係性を考えた場合、内的認識力を働かせたレフパワーの存在が重要となります。
こちらの写真は、僕が以前サポートしていた女子フリースタイルスキーモーグル元日本代表選手のフルツイスト(後方伸身宙返り1回捻り)というエアですが、日本の女子では当時彼女しか行なうことのできない難度の高い大技であり、ラフパワー優位での成功は難しいことが推測されます。
実際、フルツイスト時の手の動かし方と足の意識を頭の中でイメージするトレーニングも行なっており、まさに内的認識力としてのレフパワーとパフォーマンスの関係性が重要であることを意味しています。
「生涯サッカー」を実現するためにも、日々のトレーニング方法を改めて見直してみるのも良いかもしれませんね。
最後までお読みいただきありがとうございました!